名古屋高等裁判所 平成2年(う)17号 判決
所論にかんがみ,記録を調査し,当審における事実取調の結果をも参酌して検討するに,本件は,被告人が前妻A子の両親,妹の一家全員を殺害するため,深夜に被害者方に侵入し,右3名を所携の刺身包丁で次々に刺し殺し,その際,業務その他正当な理由がないのに,右刺身包丁を携帯したという住居侵入罪,殺人罪,銃砲刀剣類所持等取締法違反罪の案件であるが,先ず,その動機について検討するに,被告人は,自分の書いた勤務先の若い女子社員に対する手紙を妻A子に発見されるという不始末により右女子社員との浮気,駆け落ちをA子に疑われ,A子や被害者らの信頼を失い,A子との離婚の止むなきに至ったが,その後,ひそかにA子とよりを戻し半同棲の生活を送ったので,A子の家族からも,たとい入籍はできなくとも公然と一緒に暮らせるようA子との仲を公認してもらいたいと希望したのであるが,A子から公認は得られないと告げられ,自暴自棄となり,A子に対し包丁を突き付け,心中を迫るような言動をし,A子や自己の衣服を次々に切り裂く乱暴をし,さらにA子に対し,やくざに頼んでA子の家族を殺してやるなどと脅迫したりして,A子の愛情を完全に失いながら,A子との復縁ができなかったのは,A子の家族が反対したからであると逆恨みし,また,A子との離婚を迫った際の,A子の妹B子の言動が被告人を他人呼ばわりし,C子の態度も一方的であったりしたことなどを思い出し,かつ,右両名の背後にはD男がいるものと思い込み,右3名に対する恨みを募らせ,ついに,右3名に対する殺意を抱き,犯行日の2日前に凶器である原判示刺身包丁を購入し,本件犯行に及んだものであり,本件犯行の動機は,極めて短絡的かつ自己中心的であり,何等酌量の余地のないものであること(なお,所論は,被害者らが被告人とA子との「復縁」に反対していたことを,被告人に有利な事情であるかのように主張するので,付言するに,A子の検察官に対する各供述調書等によれば,C子はA子から相談を受け,「復縁」には反対であるが,最終的にはA子の考えに任せる旨述べたことが認められ,その余の被害者の意思は不明であるところ,仮に,全員が被告人とA子の「復縁」に反対であったとしても,被告人のこれまでの女性関係やA子と結婚し離婚した経緯等に照らしただけでも,被害者らが右「復縁」に反対しても,それは,A子の幸福を願ってのことであると考えられ,そのことで,被告人が被害者らを恨むのは根拠のないことで,逆恨みというべきものであって,何等被告人にとって酌量すべき事情とは認められないから,右論旨は理由がない。),その犯行態様も,前記刺身包丁を携帯して,深夜被害者方に侵入し,まず,最も恨みに思っていたB子(当時32歳)の左腋窩部,左腹部を右刺身包丁で多数回めった突きし,次いで駆け付けてきたD男(当時67歳)の右腹部を2回力一杯突き刺し,さらに,C子(当時57歳)の腹部および右側頭部を1回ずつ突き刺し,3名とも1時間30分ないし8時間以内に失血死させたもので,まことに冷酷残忍なものであること,さらに,かっては自分等と同居した親族であった被告人から突如殺害された被害者等の無念さ,被告人の極刑を望む遺族等の深刻な被害感情,その遺族に対する慰謝の措置が何等ないこと,付近住民や一般社会に与えた衝撃の大きさ,被告人は犯行当時45歳の分別盛りであったこと,等を総合考察すると,被告人の刑責は極めて重大であり,被告人を死刑に処した原判決の量刑は,まことにやむを得ないところであって,相当として是認するほかなく,所論のうち,被告人の反省状況等,肯認し得る被告人のために酌むべき情状を十分に斟酌しても,原判決の右量刑が重過ぎて不当であるとは認められない。